正心調息法の効用については、塩谷博士の著書を読んでいただくのがベターではあります。
私なりに纏めてみると、下記の3つの面が有ると捉えています。

 ①自分自身の健康に対して効果が有る
 ②他人の健康に対しても影響を与えることができる
 ③社会事象にも影響を与えることができる

この3つの側面について説明していきます。

自分の健康に対して効果が有る

自分自身の健康に関しては、正心調息法は「プラシーボ反応」を強化する手法ではないかと、最近は説明しています。以前は「思い込み効果」とか「偽薬効果」等とも訳され、プラシーボ効果と呼ばれていましたが、最近は「効果」ではなく「反応」であるという見解から「プラシーボ反応」と呼ばれる流れのようです。

医師が「プラシーボだ」と言う時は、ほとんどの場合否定的な使い方です。例えばある健康食品とか健康法で末期癌が治ったとします。それをお医者さんが「プラシーボだ」という場合、おおまかにいうと2つのことを言われています。一つは「健康食品や健康法の効果ではない」ということ。もう一つは「たまたまのことで誰にでも起こることではない」ということ。この二つはたしかに全面的に否定できる根拠は有りません。でも、そこで話を終えてしまうと、大切なことが切り捨てられてしまっていませんでしょうか。

一つ目については「健康食品や健康法の効果ではない」として、「だから治ってはいない」と言われるなら筋は通っています。でも医師はそこまでは言えないはずで「治った」という事実は残ります。
二つ目についても「誰にでも起こることではない」として、では他の人には絶対に起こらないと断言できるのでしょうか。ある人に起こったなら、他の人にも起きる可能性は否定できません。

そもそも、誰にでも起こることではなく、頻繁に起こることではないにしても、見方を変えてみれば薬も飲まず手術もせずに治ることができるならば患者にとってはこんな良い方法はない、と言えるではないでしょうか。

手術に関しては、現代医療と代替医療の融和を図り、統合医療を提唱されているアンドルー・ワイル博士のこんな言葉があります。

『外科手術は例外なく、その直接的効果に加えてプラシーボ反応を誘発しやすい条件を備えているのである。』
「人はなぜ治るのか」(増補改訂版) アンドルー・ワイル著/日本教文社刊 p.302

多少個人的な解釈も入りますが、手術という強硬手段が患者に強烈な印象を与えると同時に、お医者さんも患者さんも外科手術の有効性を確信しているからこそ、より効果が高まっている。全てが外科手術の効果として治癒しているわけではない、ということを言われている訳です。

また「プラシーボの治癒力」(日本教文社刊)によると、著者のハワード・ブローディ氏はその副題「心がつくる体内万能薬」という表現にもあるように、人間は体内に「万能の製薬工場」を持っていると考えると理解しやすいのではないかと言われています。

残念ながら現在のところ確実にプラシーボ反応を引き出す有効な方法は見つかっていませんが、誘発しやすい要因として「期待」「条件付け」「意味付け」の3つを挙げています

「期待」というのは、例えばこの有名なお医者さんなら治してくれるはずだとか、この新しい薬なら私に効くはずだとかいう期待感を持つことです。

「条件付け」というのは、「パブロフの犬」で有名な条件反射が人間にも起こり得る、と考えれば良いのではないかと思います。

実験例として数は少ないようですが、同書にはこんな事例が紹介されています。

 ●重い全身性エリテマトーデスという自己免疫疾患に罹った10代の少女がいた。
  →医師たちはシクロホスファミドという強力な免疫抑制剤の投与が必要と判断

 ●少女の母親はその薬に有害な副作用が有ることも知っていた。
  →薬は使いたいけれどできるだけ量を減らしたいと考えた
 ●ラットを使った実験例を参考に医師と相談
  →シクロホスファミドの投与と、強烈な特徴を持つ肝油とバラの香りを組み合わせた
 ●最初の3ヶ月間は、月1回の治療時に処方通りの量のシクロホスファミドを投与
  →同時に肝油を与えられ、バラの香水を嗅がされた
 ●以後の月1回の治療時には肝油とバラの香水はそのまま継続
  →しかし薬自体は3回に1回しか投与されなかった
 ●1年の治療期間を考えれば、薬は半分の量しか投与されなかった
  →治療の効果は目覚ましく、少女の症状は治まった。
        「プラシーボの治癒力」 P.16

「意味付け」とは、例えばある人が癌になったとしたら、自分が癌になった事自体は素直に受け止め、どうしてそういうことになったのかについて、仕事のこと、生活のこと、ストレスのこと等を見つめ直す。そしてその体験が持つ意味をポジティブに捉え、そこから回復する物語を自分の中で創り上げることができるとプラシーボ反応は起こりやすくなる。

「期待」「条件付け」「意味づけ」の3つを見てみると、勿論他人や環境が関与した方が生じやすい面があるにしても、場合によっては自分自身でもできないことではないことのように思えます。

正心調息法では、想念で言葉とか文字の力を取り込むときは、病気であれば「治りたい」とか「治してほしい」というような願望形ではなく、過去形または過去完了形で「治った」と断言します。内観で想像力やイメージ力を取り込むときは、病気でしたら治ってしまった後のことを思い描きます。

治ることを全く疑っていないわけですから、もう「期待」も「条件付け」も超えています。さらに「意味づけ」については「物語を創り上げる」を超えて、治癒する物語は自己完結しているということになります。

このように、正心調息法を実修する過程には、プラシーボ反応を引き起こしやすい3つの要因が自ずから組み込まれていると考えられます。